分電盤の設計において、ブレーカーの選定と容量計算は、電気設備の安全性と安定稼働を左右する極めて重要なプロセスです。不適切な選定は、頻繁なトリップ(遮断)による業務停止や生産ラインのダウンといった経済的損失を招くだけでなく、最悪の場合は電線の過熱・焼損による重大な火災事故を引き起こす恐れがあります。電気事故の多くは、この初期設計段階での見落としや、増設時の安易な判断に起因しています。
本記事では、末端の分岐ブレーカーから、それらを束ねる主幹ブレーカー、そして動力幹線に至るまでの「分電盤まるごと」の容量設計ガイドを詳細に解説します。AT・AF・極数といった基礎知識の再確認から、単相・三相の負荷電流計算、内線規程に基づく厳密な選定根拠まで、現場で役立つ実践的な知識を網羅しています。特に、設計実務において迷いがちな「電動機(モーター)回路の選定」については、計算手順をステップバイステップで紐解きます。
また、設計時に即座に活用できる「AT選定早見表3点セット(分岐回路・主幹・動力モーター)」も収録しました。設計担当者や電気工事士の方々の実務に直結する保存版の技術資料としてご活用ください。

なお、分電盤やブレーカーの具体的な増設工事の手順、物理的な配線作業のノウハウについては、分電盤・ブレーカー増設に関する記事で詳しく解説しています。本記事は理論と計算に基づく「設計計算編」、既存記事は現場での実践を伴う「工事手順編」として棲み分けを行っていますので、用途に合わせて相互に参照してください。また、全体の電気系統図については、分電盤の基本構造を解説した記事もあわせてご確認ください。
1. ブレーカー選定の基礎知識:AT・AF・極数・遮断容量とは

ブレーカー(配線用遮断器:MCCB)を選定する際、カタログや製品の銘板には様々な記号と数値が記載されています。これらの意味を正確に理解することは、適切な保護協調を図るための第一歩です。ここでは、選定の基本となる4つの重要項目について、正しい意味と現場でよくある誤解を整理します。

1.1 AT(アンペアトリップ:定格電流)
AT(Ampere Trip)は、ブレーカーが動作(トリップ)する基準となる定格電流値を示します。ブレーカー本体のレバー付近に大きく「20A」や「30A」などと表示されている数値がこれに該当します。
例えば「20AT」のブレーカーは、回路に20Aを超える過電流が連続して流れた際に、内部のバイメタル(熱動式)や電磁石(電磁式)の働きによって接点を開放し、電流を遮断します。ブレーカーの最大の目的は「接続されている電線を過熱から守ること」です。したがって、ATは保護対象となる電線の許容電流以下に設定することが絶対的な大原則となります。
1.2 AF(アンペアフレーム:フレームサイズ)
AF(Ampere Frame)は、ブレーカーの容器(フレーム)の物理的な大きさや、内部の開閉機構・接点が耐えられる最大電流値を示します。「50AF」や「100AF」などと表記されます。
同じAFのブレーカーであれば、内部のATが異なっても外形寸法や端子のピッチは完全に同一です。これにより、将来的な負荷増設に伴うATの変更(例:30AF/20ATから30AF/30ATへの交換)を行う際にも、分電盤の取付穴や銅帯(バスバー)の設計を変更せずに、ブレーカー本体の交換だけでスムーズに対応できるという大きなメリットがあります。
【よくある誤解の訂正】
現場の会話の中で「AFはATの2倍にする(AF = AT × 2)」というルールがまことしやかに語られることがありますが、これは絶対的な基準ではありません。一般的にAFはATの1.2倍〜2倍程度に設定されることが多いものの、設置場所の短絡電流が非常に大きい箇所や、将来の大幅な増設が確実に見込まれる場合には、2倍以上のAFを選定することもあります。逆に、盤のスペースに制約がある場合は、遮断容量を満たす範囲でAFを小さく抑えることもあります。三菱電機の配線用遮断器技術資料や内線規程に基づき、現場の条件に合わせて適切に判断することが重要です。
1.3 極数と素子数(PとE)
極数(Pole:P)は、ブレーカーに接続する電線の数(極の数)を示します。素子数(Element:E)は、その中で過電流を検知するセンサー(引き外し素子)が組み込まれている極の数です。
- 1P1E・2P1E:主に単相100Vの分岐回路に使用されます。2P1Eの場合、電圧線(L相)のみに素子が入っており、接地側電線(N相)には素子がありません。
- 2P2E:単相200Vの分岐回路(200VエアコンやIHクッキングヒーターなど)に使用されます。両方の線に電圧がかかっているため、両極に素子が必要です。単相100V回路でも、より安全性を高めるために2P2Eが使用されることがあります。
- 3P3E:三相200V(動力)の主幹および分岐回路に使用されます。3本すべての線に素子が入っています。
1.4 定格遮断容量(Icu/Ics)
定格遮断容量は、回路で短絡(ショート)事故が発生した際に、ブレーカーが安全に遮断できる最大の短絡電流値を示します。単位は「kA(キロアンペア)」で表されます。
短絡事故時には、通常の負荷電流とは比較にならないほどの大電流(数千〜数万アンペア)が瞬時に流れます。設置場所の想定短絡電流よりも小さい遮断容量のブレーカーを選定すると、短絡時に発生する強烈なアークを消弧しきれず、ブレーカー本体が破裂・焼損し、盤全体を巻き込む大事故に発展する危険があります。一般家庭用の低圧分電盤では1.5kA〜2.5kA、ビルや工場の配電盤ではトランスからの距離に応じて5kA〜10kA以上の製品が厳密に計算・選定されます。
2. 負荷電流の計算手順と具体例

ブレーカーのATを選定する第一歩は、接続される機器の負荷電流を正確に計算することです。機器のカタログに消費電力(WやkW)しか記載されていない場合、自ら電流値(A)を導き出す必要があります。ここでは、単相回路と三相回路(動力)の計算式と具体例を解説します。

2.1 単相回路の負荷電流計算
一般家庭やオフィスの電灯・コンセント回路で使用される単相交流の電流は、以下の式で求めます。
計算式:I(電流 A) = P(電力 W) ÷ V(電圧 V)
【具体例】
消費電力2,000WのIHクッキングヒーターを単相200Vで使用する場合
I = 2,000 ÷ 200 = 10A
計算上は10Aとなりますが、起動時の突入電流や、長時間の連続使用に対する余裕度を考慮し、一般的には20ATの専用ブレーカーを選定します。
単相3線式における分電盤全体の主開閉器(主幹ブレーカー)の定格電流は、以下の式で求めます。
主開閉器の定格電流(A)= 最大需要電力(VA)÷ 100(V)÷ 2 × 1.3(不平衡率) + 加算値(A)
この計算については、後の早見表の章で詳しく解説します。
2.2 三相回路(動力)の負荷電流計算
工場や大型店舗のモーター、パッケージエアコン、工作機械などで使用される三相交流の電流は、力率(cosφ)とモーターの効率(η)を考慮した以下の式で求めます。
計算式:I(電流 A) = P(出力 W) ÷ (√3 × V(電圧 V) × cosφ × η)
※ √3(ルート3) ≒ 1.732
【具体例】
出力7.5kW(7,500W)、定格電圧200V、力率0.85、効率0.85の三相誘導電動機(モーター)の場合
I = 7,500 ÷ (1.732 × 200 × 0.85 × 0.85)
I = 7,500 ÷ 250.27 ≒ 30.0A
注意:上記の計算はあくまで一例であり、内線規程(JEAC8001-2016)において7.5kWのモーターの「規約電流」は 34A と定められています。計算値(30A)や、効率を無視した理論値(約25.5A)をそのまま選定に用いると、実際の電流を過小評価してしまう危険があります。
そのため、実際の設計においては計算に頼るのではなく、モーターの銘板に記載されている「定格電流値」を直接読み取るか、内線規程の規約電流値を用いるのが最も確実です。モーターの場合は、起動時に定格電流の5〜8倍(直入れ始動の厳しい条件では9倍以上)もの始動電流が流れるため、この定格電流を基に内線規程に従ってブレーカーを選定します。
3. 内線規程に基づくブレーカー選定の根拠

ブレーカーの選定は、設計者の勘や経験則で行うものではなく、「内線規程(JEAC8001)」や「電気設備技術基準の解釈」に基づく明確な根拠が必要です。ここでは、三菱電機や日東工業などのメーカー技術資料にも引用されている、主要な選定基準を解説します。
3.1 分岐回路の過電流遮断器(電灯・コンセント)
内線規程(3605-3-3)では、「連続負荷を有する分岐回路の負荷容量は、その分岐回路を保護する過電流遮断器の定格電流の80%を超えないこと」と定められています。これは、ブレーカーが定格電流の100%ギリギリで連続使用されると、周囲温度の上昇などにより不要なトリップを引き起こす可能性があるためです。
例えば、125WのLED照明器具を10台接続する場合(電源装置の入力電流最大値を0.69A/台とする):
合計電流 = 0.69A × 10台 = 6.9A
必要な定格電流 = 6.9A ÷ 0.8 = 8.625A
したがって、直近上位の15ATまたは20ATのブレーカーを選定します。分岐過電流遮断器の容量選定についての詳細は岩崎電気の技術資料も参考になります。

3.2 電動機(モーター)分岐回路の選定
モーター回路の設計が特殊とされる最大の理由は「始動電流」の存在です。モーターは回転し始める瞬間に、定格電流の数倍の大電流が数秒間流れます。もし定格電流と同じATのブレーカーを選ぶと、モーターを起動するたびにブレーカーが落ちてしまいます。そのため、内線規程(3705-3-3)では、以下の基準が設けられています。
- 電動機の定格電流が50A以下の場合:ブレーカーの定格電流 ≤ 電動機の定格電流 × 3倍
- 電動機の定格電流が50A超の場合:ブレーカーの定格電流 ≤ 電動機の定格電流 × 2.75倍
これに加え、「電動機の始動電流によって動作しない特性を持つ遮断器であること」が条件となります。また、ブレーカーのATが大きくなることで電線が保護されなくなる懸念に対しては、サーマルリレー等の「過負荷保護装置」との保護協調が適切に図られていることを条件に、電線の許容電流の2.5倍以下のブレーカーを選定することが認められています。動力ブレーカーの選定方法についてはさらに詳しい解説も参考にしてください。
3.3 動力幹線と主幹ブレーカーの選定
複数のモーターや電熱器が接続される動力幹線の主幹ブレーカー選定は、さらに複雑になります。内線規程(3705-8)に基づき、以下の手順で計算を行います。
まず、接続される全電動機の定格電流の合計(IM_SUM)と、その他の機器(ヒーター等)の定格電流の合計(IH_SUM)を算出します。
- 基本計算値の算出:3 × IM_SUM + IH_SUM(電動機の合計を3倍し、その他の機器を足す)
- 上限の確認:上記1の計算値が、幹線の許容電流の2.5倍を超える場合は、幹線の許容電流の2.5倍以下とする。
- 標準定格への調整:幹線の許容電流が100Aを超え、計算値がブレーカーの標準定格に該当しない場合は、直近上位の標準定格を選定できる。
これらの複雑な計算を現場で迅速に行うために、次章で紹介する早見表が広く活用されています。
4. 【最重要】保存版・AT選定早見表3点セット

現場での設計・確認作業を劇的に効率化するため、内線規程および主要メーカー(三菱電機、日東工業等)の技術資料に基づくAT選定早見表を作成しました。テキスト表として掲載しますので、設計時のリファレンスとしてご活用ください。
注意事項:本表の数値はあくまで一般的な目安です。実際の選定にあたっては、使用する機器の仕様書、周囲温度、配線こう長による電圧降下、および最新の内線規程を必ず確認し、最終的な判断を行ってください。
4.1 ①分岐回路 AT早見表(電灯・コンセント)
一般的な電灯・コンセント回路の目安です。

| 負荷の種類・容量 | 電圧 | 計算電流の目安 | 推奨ブレーカー(AT) | 備考・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 一般コンセント(〜1,200W) | 単相100V | 〜12A | 15AT または 20AT | 負荷容量は定格の80%以下に抑える |
| 電子レンジ・ドライヤー等(〜1,600W) | 単相100V | 〜16A | 20AT | 大容量機器は必ず専用回路を設ける |
| 業務用機器(〜2,400W) | 単相100V | 〜24A | 30AT | 電線太さに注意(2.6mmや5.5sq等) |
| ルームエアコン(2.8kWクラス) | 単相200V | 〜14A | 20AT | 専用回路(2P2Eを使用) |
| IHクッキングヒーター | 単相200V | 〜30A | 30AT | 専用回路(2P2Eを使用) |
4.2 ②主幹ブレーカー AT早見表(住宅用電灯分電盤)
単相3線式、住宅用分電盤の主幹ブレーカー容量の目安です。住宅面積から最大需要電力を推定し算出しています。

| 住宅面積の目安 | 最大需要電力(推定) | 推奨主幹ブレーカー(AT) | 1線あたりの想定電流(×1.3不平衡率) | 加算値の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 50㎡(15坪)以下 | 4 kVA | 30AT | 26.0A | 0A |
| 70㎡(20坪)以下 | 5 kVA | 40AT | 32.5A | 0A |
| 100㎡(30坪)以下 | 6 kVA | 50AT | 39.0A | 5A |
| 130㎡(40坪)以下 | 7 kVA | 60AT | 45.5A | 5A |
| 170㎡(50坪)以下 | 8 kVA | 60AT | 52.0A | 5A |
※EV充電器、エコキュート、オール電化、大型蓄電池などの大容量設備を導入する場合は、この表の目安に加えて一段階上の容量を検討するか、個別の需要率計算を行ってください。
4.3 ③動力モーター分岐回路 AT早見表(三相200V)
三相200Vの汎用かご形誘導電動機(直入れ始動)に対する、配線用遮断器の定格電流の目安です。本表は内線規程(JEAC8001-2016)資料3-7-5および日東工業の技術資料に基づいています。

| 電動機出力(kW) | 全負荷電流(規約電流 A) | 推奨ブレーカー(AT) |
|---|---|---|
| 0.2 | 1.8 | 15AT |
| 0.4 | 3.2 | 15AT |
| 0.75 | 4.6 | 15AT |
| 1.5 | 8.0 | 30AT |
| 2.2 | 11.1 | 40AT |
| 3.7 | 16.8 | 60AT |
| 5.5 | 24.6 | 75AT |
| 7.5 | 34.0 | 125AT |
| 11.0 | 48.0 | 125AT |
| 15.0 | 64.0 | 150AT |
| 22.0 | 92.0 | 225AT |
| 30.0 | 124.0 | 300AT |
注意①:小容量モーター(0.2kW等)に対して極端に小さいAT(例:5AT)を選定すると、直入れ始動時の大電流(定格の9倍以上)によりブレーカーが即座にトリップしてしまいます。必ず上記のような内線規程に準拠した値を選定してください。
注意②:スターデルタ始動やインバーター駆動の場合は、始動電流の特性が異なるため、選定基準が変わります。必ず各機器メーカーの技術資料を確認してください。
5. 現場の失敗例3選に学ぶ、設計の落とし穴

理論上の計算だけでなく、実際の現場で起こりがちなトラブルを知ることで、より安全で確実な設計が可能になります。ここでは、設計ミスが引き起こしたよくある失敗例とその教訓を紹介します。特定の業種や規模はぼかしていますが、どの現場でも起こり得る事例です。
失敗例①:主幹容量不足でトリップが頻発
ある工場で、生産ラインの拡張に伴い新しい工作機械を複数台増設しました。担当者は「各機械の分岐ブレーカーを追加し、盤の空きスペースに収まれば問題ない」と考え、分岐回路のみを増設しました。しかし、稼働のピーク時間帯になると、工場全体の主幹ブレーカーが頻繁にトリップし、全ラインが予期せず停止する事態に陥りました。
【原因と教訓】
主幹ブレーカーの容量は、単なる分岐ブレーカーのATの足し算ではありません。設備全体の「最大需要電力(同時使用率を考慮した実際の最大電流)」に基づいて主幹容量を再計算しなかったことが原因です。分岐を増設する際は、必ず大元である主幹容量の余力を確認し、必要に応じて主幹ブレーカーのサイズアップや幹線工事を検討する必要があります。
失敗例②:インバーター化による漏電ブレーカーの誤動作
省エネ対策の一環として、施設のポンプ用モーターを従来のじか入れ始動からインバーター制御に変更しました。コスト削減のため、配線や漏電ブレーカー(ELCB)は既設のものをそのまま流用しました。しかし稼働開始直後から、漏電ブレーカーが頻繁に落ちるようになりました。メガテスターで絶縁抵抗を測定しても、実際の漏電は見つかりません。
【原因と教訓】
インバーターは内部で高速スイッチングを行うため、回路に高調波(高周波の漏れ電流)を発生させます。古い漏電ブレーカーの零相変流器(ZCT)がこの高調波を実際の漏電と勘違いして誤動作したのが原因です。インバーターを導入する際は、必ず「高調波・サージ対応形(インバーター対応形)」の漏電遮断器に交換する必要があります [6]。誤動作を防ぐために安易に感度電流を上げる(例:30mAから100mAや200mAにする)のは、人体への感電保護の観点から絶対に避けてください。インバーター寿命・エラーコードなどのトラブルシューティングと合わせて確認することが重要です。
失敗例③:過大選定による電線焼損リスク
ある店舗の改修工事で、「将来機器が増えてもブレーカーが落ちないように、余裕を持たせておこう」と考え、許容電流が23Aの電線(VVF 2.0mm 2心)の回路に、意図的に30ATのブレーカーを設置しました。

【原因と教訓】
これは非常に危険な設計ミスです。ブレーカーの最大の目的は「電線の保護」です。この状態で機器が異常を起こし25Aの過電流が流れ続けた場合、ブレーカーはトリップしませんが、電線は許容電流を超えているため壁の中で異常発熱し、被覆が溶けて火災に至る恐れがあります。ブレーカーのATは、必ず保護する電線の許容電流以下に設定しなければなりません。「余裕を持たせる」対象を間違えてはいけません。
なお、VVF 2.0mmの許容電流は心線数によって異なります。2心(2C)は23A、3心(3C)は20Aです。回路設計の際は使用する電線の心線数を必ず確認した上でATを選定してください。
6. ここからは電気工事士の仕事:資格が必要な作業範囲

分電盤の設計や計算自体は無資格でも行うことができますが、実際の設置や配線作業には国家資格である「電気工事士」の資格が法律で義務付けられています。適切な設計ができても、施工に不備があれば元も子もありません。

6.1 資格が必要な作業(DIY不可)
以下の作業は、感電や短絡、火災の危険が伴うため、無資格者が行うことは電気工事士法で固く禁じられています。
- 分電盤本体の壁面への取り付け、取り外し
- 主幹ブレーカー、分岐ブレーカーの交換や増設
- ブレーカーへの電線の接続、取り外し
- 屋内配線(VVFケーブル等)の敷設やコンセントの増設・移設
一般住宅や小規模店舗(600V以下)の分電盤工事には「第二種電気工事士」が、工場やビルなど高圧受電設備を持つ施設の低圧部分の工事には「第一種電気工事士」または「認定電気工事従事者」の資格が必要です。電気用図記号一覧を正しく読み取り、図面通りに施工する能力が求められます。
6.2 資格が不要な「軽微な工事」
例外として、以下の作業は資格がなくても行うことができます。
- 電力会社が設置する電力量計(メーター)や電流制限器(アンペアブレーカー:サービスブレーカー)の操作
- コンセントへのプラグの抜き差し
- ヒューズの交換
分電盤の容量不足を感じたり、ブレーカーが頻繁に落ちたりする場合は、決して自己判断で盤のカバーを開けて配線を触らず、必ず有資格者が在籍する電気工事店に相談してください。
7. よくある質問(FAQ)


Q1. ブレーカーの「AT」と「AF」の違いは何ですか?

A1. AT(アンペアトリップ)はブレーカーが電流を遮断して動作する数値、AF(アンペアフレーム)はブレーカーの容器サイズや耐えられる最大電流の枠組みを示します。同じAFならATが違ってもサイズは同じです。

Q2. 「AFはATの2倍にする」というのは本当ですか?

A2. 必ずしも2倍にする必要はありません。一般的には1.2倍〜2倍程度が目安ですが、短絡電流の大きさや将来の増設予定など、現場の条件や内線規程に基づいて適切に選定します。

Q3. モーターのブレーカーはなぜ定格電流より大きいものを選ぶのですか?

A3. モーター(誘導電動機)は、起動する瞬間に定格電流の数倍の「始動電流」が流れます。定格電流と同じブレーカーでは起動のたびに落ちてしまうため、内線規程により定格電流の3倍(50A超は2.75倍)までの選定が認められています。

Q4. インバーター機器を入れたら漏電ブレーカーが頻繁に落ちます。どうすればいいですか?

A4. インバーター特有の高調波(高周波漏れ電流)による誤動作の可能性が高いです。感度電流を鈍くするのではなく、「高調波対応形(インバーター対応形)」の漏電遮断器への交換を電気工事店に依頼してください。

Q5. 分岐ブレーカーの容量を20Aから30Aに自分で交換してもいいですか?

A5. 絶対にやめてください。ブレーカーの交換には電気工事士の資格が必要です。また、配線(電線)の太さが30Aに耐えられない場合、発熱して火災の原因になります。

Q6. 主幹ブレーカーの容量は、分岐ブレーカーの容量の合計と同じにすべきですか?

A6. いいえ、合計と同じにする必要はありません。すべての機器を同時に最大出力で使うことは稀であるため、需要率(同時使用率)を考慮した「最大需要電力」を計算して主幹容量を決定します。
8. まとめ

分電盤の容量計算とブレーカー選定は、単に数式に当てはめるだけの機械的な作業ではありません。
計算上は適正であっても、現場の温度環境、配線距離による電圧降下、将来の設備拡張の可能性、そして何より「その設備を使うお客様の運用実態」を想像する力が求められます。特に近年は、LED照明への移行による突入電流の問題や、インバーター機器の普及による高調波対策、さらにはEV充電器の追加など、考慮すべき技術的要素がますます複雑化しています。
本記事でも取り上げたように、「保存版」と銘打った早見表であっても、その数値の根拠が内線規程の規約電流値と乖離していれば、現場で実害を生じさせます。特に動力モーター回路では、始動電流の特性を正しく理解せずに過小なATを選定すると、モーター起動のたびにトリップが発生し、最悪の場合は設備全体の稼働停止を招きます。逆に、「とりあえず大きめのブレーカーをつけておけば落ちなくて安心」という安易な過大選定は、電線という最も重要なインフラを危険に晒す行為です。
常に「何を保護するためのブレーカーなのか」という原点に立ち返り、内線規程(JEAC8001)というルールを遵守しながら、安全とコストの最適解を導き出すこと。そして、設計した数値を現場の職人が正確に施工できるよう、明確な図面と仕様書で伝えること。それが、電気設計に携わるプロフェッショナルとしての責務であると考えます。
本記事の早見表や計算式が、皆様の安全で確実な設計業務の一助となれば幸いです。
参考文献
[1] 三菱電機, “三菱ノーヒューズ遮断器技術資料集”, http://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/lvcb/yn-c-0657/y0657d1502.pdf
[2] 電験超入門部, “【遮断器】AF/AT(アンペアフレーム/トリップ)の意味と違い・選定方法”, https://denken.joho.info/hoki/af-at-ampere-frame-trip/
[3] 日東工業, “内線規程改定に伴うブレーカ選定の変更(JEAC8001-2016対応)”, https://ntec.nito.co.jp/news/pdf/0000004229.pdf
[4] 岩崎電気, “分岐過電流遮断器の容量の選定”,
https://www.iwasaki.co.jp/lighting/support/tech-data/document/wiring/07.html
[5] 電旅, “電動機用動力ブレーカーの選定方法”,
https://dentabi.com/selection-method-for-motor-circuit-breakers/
[6] テンパール工業, “零相変流器の平衡特性”, https://www.tempearl.co.jp/products/cate/files/catalog/2017-2018/2017-0291.pdf
